血圧のはなし
血圧のはなし
健康診断のときや、スポーツクラブに行くとよく見かける血圧測定器。若い人たちにとって、普段の生活ではあまり馴染みのないものですが、血圧からはそのときの身体の調子がよく見えてきます。とくに、寒い時期は気をつけたいものです。
高血圧は、合併症として脳卒中、心筋梗塞、大動脈瘤破裂など、ときには命にかかわるような発作を起こしますが、それらは冬場に多く起こります。さて、それはなぜでしょうか?
人間のからだは寒さにさらされると、交感神経が緊張して血管収縮を起こし、血圧が上がります。血圧が高い人ほど、その上昇度が大きく、それが脳心事故の発症につながるのです。最近は、暖房が完備して室内ではあまり寒さを感じないようになりました。また、暖冬の影響で昔ほど寒い日が少なくなりました。それでも、油断は禁物です。血圧の高い人は、次のような状況に注意してください。
【高血圧の人は注意!】
●暖かな屋内から、寒風が吹く戸外に出たとき
とくに飲食の後などでは、狭心症発作を起こしたりして思わぬ事故につながることがあります。
●入浴時、寒い脱衣場で裸になるとき
寒冷による血圧上昇反応が起きるので、浴室も脱衣場も温かくしてから入浴しましょう。
●酒を飲み過ぎたとき
アルコールを摂ると、はじめは血管が拡張して血圧が下がりますが、酔いがさめる頃になると血圧が上昇してきます。それが、不整脈、狭心症、脳梗塞を誘発します。
●宴会が続いたとき
冬は忘年会、新年会などの宴会が多い時季です。一方、運動はおろそかになりがちです。運動不足、体重増加、喫煙などが重なって、高血圧の合併症を促進します。
●塩分を摂り過ぎたとき
おせち料理、漬け物、なべ汁など、冬はとかく塩分摂取量が多くなりがちです。うどん、ラーメンなどでは、汁を残すようにしましょう。
【冬場の高血圧対策12か条】
1. 酒を飲み過ぎない
2. 寒風でからだを冷やさない
3. 室温は適正に維持
4. 塩辛いものを避ける
5. 浴室、トイレを暖かに
6. 適正体重の維持
7. 暖かな時刻に30分以上のウォーキング
8. 降圧薬服用は忘れずに
9. 禁煙に取り組もう
10. 毎朝、家庭で血圧測定
11. 気分はゆったり、イライラしない
12. 休養は十分にとる
血圧は健康診断や医師の診察のときだけでなく、看護師さん、保健師さんに頼めば気軽に測ってくれます。さらに最近では、家庭でも簡単に測れるようになりました。家庭用の血圧計は、デパートや電気器具店でも容易に入手できます。価格は1万円くらいです。なるべく簡単な上腕測定用のものがよいと思います。
家庭血圧というと、「血圧値に神経質になるから」といやがる人がいます。しかし、今では家庭血圧が高血圧管理に有効なことが、国際的にひろく認められています。WHOでも家庭での血圧測定を積極的にすすめています。
血圧値は、脈拍数と同じように時々刻々変動しています。1日のうちでも昼、働いているときは高く、夜やすんでいるときは低くなります。仕事、運動、食事、排便、入浴など、日常生活の中で血圧は常に動いているのです。ですから、血圧は一定の時刻にゆっくりとした状況下で測定して、それを基準とすることが望まれます。
家庭における血圧測定の注意点 |
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●上腕で測定する(手首や指は不正確) |
●朝、起床後1時間以内、食前、降圧薬服用前に測る |
●安静座位で2回測る(安定していれば1回で可) |
●測定値は記録して、診療時に医師に提示する |
●測定前、飲酒、喫煙は避ける |
●一般に家庭血圧は診察時の血圧よりも低いことを認識する (家と医療機関での測定値の差が大きいことを白衣高血圧という。白衣高血圧=家で血圧を測ると正常範囲なのに、医療機関では血圧が一時的に上昇し高血圧と診断されること。) |
●休日よりも勤務日の血圧を基準にする |
●血圧値の高低で薬の服用を勝手に変えず、必ず医師に相談する |
今までの高血圧管理は、医師が血圧を測定して薬を投与するという一方的なものでした。しかし、これからの医療は、医師と患者が情報を共有し、相互の信頼の上に立った共同作業としてすすめられることになるでしょう。家庭血圧は、その大事な一歩となるものです。
(健康事業総合財団[東京顕微鏡院] 学術顧問、東京都老人医療センター名誉院長 小澤利男)